最強最速の将棋

最強最速の将棋 (マイナビ将棋BOOKS)先日紹介した相掛かり無敵定跡研究に引き続き、これまた最上級表現を含んだパワフルなタイトルの棋書の登場です。

この棋書は2013年夏頃から発売されている「SUPER自戦記シリーズ」のシリーズ4冊目となります。

このシリーズは、若手有力棋士の自戦記集となっており、その特徴は自戦記の間にその時々の局面で派生する有力な指し方の研究が載っていることです。

その研究は分野ごとに分かれており「序盤の研究」「定跡講座」「中盤の急所」「終盤の解明」となっています。そして本書の特徴は、そんなシリーズの中でも断トツの研究内容の多さです。

なんといっても1局の自戦記に対して数ページにわたる序盤の研究が2つに、さらに定跡講座があったりと、本編を忘れる程の充実ぶり。1ページの本編のあとに4ページの序盤の研究とかの場合もあるので、もう本編なんかどうでもよくなることもしばしば。

今までの若手の自戦記集は正直あまり参考になることは無かったですが、このシリーズ、特に本書は相当に勉強になりますね。

まあ自戦記としては6局しかないのですが、定跡書にもあまり載っていないような細かい端歩の変化や仕掛け手順等、いかにも若手精鋭らしい緻密な研究がたっぷり堪能できます。

ちなみに著者の斉藤五段は屋敷九段以来のC級2組を一期抜けした有力株で、そういった意味でも注目です。そのC級2組の戦いとなる自戦記を1局ずつ見ていきましょう。

 

<第1局 中村亮介五段戦> 戦型:▲石田流VS▽左美濃

斉藤五段は居飛車党。本書の6局のうち4局が対振り飛車となっています。本局は▲石田流に対して手堅い指し方と言える左美濃を選択しました。が、早速序盤の研究が入ります。

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本譜では▽4二玉でしたが、ここでの▽1四歩を2ページで解説しています。端を受けずに指すパターンと、端を受けたら相振り飛車にして指すパターンと2つを軽く解説しており、なるほどと思いました。

自分はこの局面からよく▽5四歩からの相振り飛車を指すことがあるのですが、そういう意味での▽1四歩はありだなと思いました。序盤の何気ない端歩の一手にも気を抜けない時代になりましたねえ。そしてさらに進んで下図の局面。

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NHK杯を見ていると、よくここでの▽6五歩がいつも気になるんですが、これにも明快に解答してあります。以下▲同歩▽8八角成▲同銀▽2八角▲5五角▽3三桂▲7四歩まで先手優勢。

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なるほどなるほど、以下▽7二金には▲7三歩成▽同金▲同飛成(角成もありそうですが▽5五角が少し嫌ですかね)▽同金▲同角成ですね。

ちなみにこの解説は、本編中での解説となります。というか本書の自戦記は本当に解説が細かいですね。こういう細かい変化を我々としては知りたいわけで、とてもありがたいです。

これら以外にさらに定跡研究と定跡講座があり、最後に終盤の解明まで付いているてんこもりの自戦記一発目でした。いやあ読み応えありますね。石田流を指す人もかなり必見の内容ですよ。

 

<第2局 佐藤和俊五段戦> 戦型:▽角道オープン四間飛車VS▲居飛車穴熊

本局は、角交換四間飛車ではなく、角道オープンのまま駒組みを続け、そのまま居飛穴対銀冠になるという、ありそうであまり見ない形となりました。今回は定跡講座として戸辺六段得意の4→3戦法を、なんと5ページにわたって解説。

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ここからの▲2四歩以下の対応と、オーソドックスに▲4八銀とする形、さらには▲6六歩から居飛車穴熊に組む形と、充実の解説内容。第1局の解説もそうでしたが、居飛車党の斉藤五段なのに、振り飛車視点のような書き方なのが面白かったですね。ほんとにこの5ページだけでとりあえず4→3戦法を指せるかなというほどの内容です。(言い過ぎかな)

そしてこの章末のコラムがじわっときました。斉藤五段が奨励会の頃、他の棋士に「今何級?」と聞かれ「まだ5級です」と答えたというだけのエピソードなんですが、自分はまだ上を目指せるから「まだ」と付けたのだろうということがなるほど、という感じでした。

さらに最近タクシーの運転手に、「何段ですか?」と尋ねられ「まだ五段です」と答えたというのが熱いですね。

 

<第3局 菅井達也五段戦> 戦型:▲石田流VS▽左美濃

そしてここで俊英、菅井五段との全勝対決の1番です。戦型は再び石田流対左美濃。石田流に対する左美濃はタイトル戦でも登場していますし、相当に有力そうですね。いつも相振り飛車か棒金かにしているので、一度左美濃も指してみようかと思います。

そして本局では序盤の何気ない一手に解説が入っています。それが下図の局面。

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ここで▽5二金右ではなく、▽3一玉だったらどうなるかという解説なんですが、いやあ自分ならこの局面で▽3一玉とうっかり指してそうですけどね。

つまりここで▽3一玉だと、居飛車からの仕掛けがあるのです。▽3一玉以下、▲6八飛▽5四銀▲7四歩△同歩▲6五歩!で下図。

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なるほど、5三の地点に隙ができると、こういう仕掛けが生じるんですね。しかし2二の角が浮いているから、早く▽3一玉としたくなるところだけに、盲点になりますね。

ちなみにここから▽同歩には▲2二角成から▲6四角、▽同銀には▲2二角成から▲5五角で先手優勢となります。そして本局の全勝対決をなんと勝利し、6連勝となります。いやあすごいですね。

 

<第4局 牧野光則四段戦> 戦型:相矢倉▲3七銀戦法

そして第4局で、やっと相居飛車の将棋ですね。そして本局の注目の序盤の解説は、何気に気になる序盤の解説でした。

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それがこの図なのですが、まあよく見る局面ですよね。ここで▽4五歩が気になるのですが、ここにもさらっと解説入ってます。

以下▽4五歩▲3七銀▽5三銀▲4八飛▽4四銀右▲4六歩△同歩▲同角▽同角▲同銀▽4八歩▲3八飛▽4九角▲2八飛▽4八歩成▲同飛▽2七角成▲5七金(下図)にて先手優勢というもの。

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なかなか自戦記の解説で、ここまで細かく解説してくれることってないですよね。こういう長めの棋譜だけでもいいから、ちらほら解説いれてくれる形式は素敵ですね。知りたい人は棋譜だけで十分ですし、知りたくない人は読み飛ばしますからね。

ちなみに木村八段の棋書「木村の矢倉 3七銀戦法基礎編」にはさらに詳しく解説があります。この先が知りたい人のために棋譜だけで以下手順を紹介。

▲5七金以下、▽3六馬▲4七金▽同馬▲同飛▽3六金▲4九飛▽4八歩▲3九飛▽4六金▲2八角▽5七銀▲7九角で先手優勢。何気に▲3九飛〜▲2八角〜▲7九角は知らないと指せないですね。

そんな木村の矢倉シリーズも、このとおり解説が半端なく詳しくて良書です。いずれこちらも紹介したいと思います。

 

<第5局 石川陽生七段戦> 戦型:▽角交換四間飛車VS▲矢倉からの左玉

本局は、角交換してからのじっとりと長い中盤戦の末に、先手の斉藤五段が左玉の陣形になるという一戦。この戦型はもともと手詰まりになりやすいので、じわじわと玉頭に位を取って、地下鉄飛車にする構想は、知っておいて損はないかと思います。今回はさらっと飛ばして次局へ。

 

<第6局 中座真七段戦> 戦型:横歩取り▽8五飛

そして昇級を決めた大一番は、中座七段の18番、なんと中座飛車との対決です。横歩取りこそは定跡研究の定番、なんと9ページにわたって序盤の様々な変化を解説しています。

この充実っぷりには恐れ入りますね。戦型としては先手も中原囲いを目指す下図になります。

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直前の▲1六歩が緩手とのことで、後手から▽5四歩〜▽5五歩と咎められたとのことでした。そして▲1六歩が緩手だったけど、そう指した理由についての解説が、なんと9ページにわたっているのです。

この戦型での早い▲1六歩は、たしか屋敷九段が最初に指したかと思いますが、▲3六歩と突かないことで飛車の横利きを通したまま、▲1七桂から▲2五桂で端攻めを含みにするという指し方。

本譜の端歩もそうですが、石田流に対する▽1四歩など、何気ない序盤の端歩がどの戦型でも奥深い研究があるのがわかる、非常に興味深い一冊となりました。

まだ五段の斉藤さんを、これからはちょっと注目して応援していきたいですね。

 

推奨棋力:初段以上。