三浦の矢倉研究 脇システム編

三浦の矢倉研究 脇システム編 (マイナビ将棋BOOKS)三浦九段の久々の一冊は、待望の矢倉「脇システム」の定跡書。自分は10年くらい前によく脇システムを指していたので、その頃読みたかったなあという棋書ですね。

脇システムの長所は、まず相矢倉で後手が急戦を目指さないのであれば確実に脇システムの形に持って行けること。そして分かりやすい駒組みからの破壊力のある攻撃力。この2つが魅力です。

当時は実力互角くらいの相手に、脇システムを使えばほぼ負け無しだった気がします。では何故指すのをやめたのかというと、相矢倉の後手からの急戦が嫌だったから。こればっかりは避けることが出来ないので、しょうがないですね。

本書では、そんな人のために序盤から解説が盛り込んであり、後手からの▽5三銀右急戦や右四間に関しても解説があります。特に▽5三銀右急戦に関しては、最近のタイトル戦でも登場している最新形についても解説があります。

そしてラストには、電王戦で登場したGPS新手についても書かれています。ここが一番気になりますね。というわけで内容を見ていきたいと思います。

 

<序章 脇システムの優秀性>

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まずは脇システムの基本形。ここからの先手の成功例として、三浦ー稲葉戦を例に解説があります。実戦はここから▲6四角▽同銀▲2六銀から棒銀へ。

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これこそが脇システムの真骨頂。自分から角交換するので一手損になりますが、後手の銀を6四に限定させたのが主張。つまりここで手番は渡すけれど、一筋の突き合いがある形での棒銀の方が攻撃力が高い、ということですね。

以下は▽7五歩▲同歩▽6九角と先攻するも、▲1五歩▽同歩▲同銀と反撃。

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これこそ脇システムの代表的な成功例で、矢倉における棒銀の破壊力がよく分かりますね。

 

<第1章 相矢倉の基本>

本章では、脇システムに組むまでの序盤を解説。ここは初級者向けなので、脇システムだけを勉強したい有段者は読み飛ばしていいですね。内容は下記の通り。

・序盤の▲6六歩と▲7七銀の違い。

▲6六歩なら後手から右四間飛車があり、▲7七銀には矢倉中飛車があるので、どちらが嫌かということ。極論で言えばここは好みと言えるが、プロは右四間飛車は怖くないと見ていることが分かりますね。

・▽5三銀右急戦の解説。

最近タイトル戦でもたまに登場するようになった後手の急戦策。最新形について書かれている棋書は少ないので、貴重かもしれないですね。ここだけで16ページも割いているので、内容はそれなりに充実しています。

<第2章 脇システム▽7三銀型>

いよいよここから脇システムの詳しい解説が始まります。ここでも後手が▽6四角と上がる意味など、丁寧な解説が続き、なかなか本題に届かないのが少しイライラするところ。

早く▲4六角とぶつかる局面から先が知りたいというのに、ここにきて▲4六角ではなく▲6八角とする通常形の解説も挟み込んできたりするのはどうなんでしょうね。

というわけで、本格的な解説はズバリ44ページから。

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それがこの局面ですね。やっとここまで来たかという感じ。タイトルに脇システムと謳っている以上、もう少し内容を絞り込んで欲しかったです。

それはさておき、上図からの指し手が意外と細かく、例えばここで▽3一玉だと▲3五歩▽同歩▲同角が成立するなど、その丁寧すぎる作りはここからも健在。基本図に辿り着くまでもなかなか細かいことが分かりますね。

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そして辿り着いた基本形。ここから冒頭の棒銀の詳しい解説。▲1五歩▽同歩▲同銀ではなく▲同香と走る形や、▽6九角ではなく▽4九角と打つ形へも解説があります。思っていたよりも端で▲同香と取る変化が先手悪くない感じで意外でした。

そして、お次は気になる端の形の違いへ。

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お互いに端を突き越した形で、この形では棒銀に出ても効果が薄いため、どうするのかというと、、▲3五歩▽同歩▲同角と動くのが最新形。

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これは知らないと指しづらい仕掛けですね。ここで▽3六歩が見えているからですが、▲6五歩の反撃があるので大丈夫ですね。

ここからの攻防は以下▽8六歩▲同銀▽3六歩▲4六銀に▽6二銀と引き、さらに▲5五歩▽同歩▲5八飛で下図。

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▽6二銀がやわらかい一手で、▲6五歩に▽7三角を作りながら、▽4五歩と突いた時の▲7一角成を防いでいます。しかしながら上図は先手十分と思われる局面ですね。

 

<第3章 脇システム▽7三角型>

次は▽7三角型と呼ばれる形の解説です。まずは▲4六角とぶつけた局面。

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ここですかさず▽7三角!と引くのが、脇システム▽7三角型。

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知らないと意味不明の一手に見えますが、仮にここで▲7九玉では▽6四歩!とするのが狙いで、先手の3七の銀が使いづらくなります。

一見、▲3五歩▽同歩▲同角で問題なさそうですが、そこですかさず▽6五歩の反撃があり、それがだめなら3七の銀が使えないということになります。

よって上図の▽7三角には▲同角成とするしかなく、▽同銀とした形は手損にはなっていません。

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そしてお互いに入城して下図。

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この▽7三角型では、▲6一角と打っていくことになるのですが、その為にここでの次の一手は▲9六歩!

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単に▲6一角だと▽9四角で一手損になる為、それを消す細かい駆け引きです。

以下▽1四歩▲9五歩▽1五歩と、お互いに玉側の端歩を突き越すという今までとは逆の形になったところで▲6一角!

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これが4三の金に狙いを付け、▲3五歩▽同歩▲同銀の斜め棒銀との相性が良い形です。また、銀を手に入れると▲8三銀があります。

▲6一角に対して▽5三銀と守勢に回ると、難しいながら先手の攻めと後手の受けという展開になり、先手十分になりやすそうです。

また▽4九角と後手も同じ角打ちで対抗する形もあるものの、本書での解説ではやはり先手十分に。このあたり、定跡書としては少し内容が浅いかなという気がする内容ではあります。

しかし本章ラストに「端歩の駆け引き」として、端歩の違いの4パターンを紹介。

①まずは、単に▲6一角と打った場合。

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解説はまさかの、▽9四角で手損、で終わり。

②▲1六歩に▽4九角と打たれた場合。

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解説はまさかの、▲9六歩ではなく▲1六歩と突くと、この▽4九角で先に仕掛けられる恐れがある、で終わり。

③▲9六歩▽9四歩に▲6一角とする形。

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解説は、ここで▲1六歩では▽4九角と先攻されるので▲6一角とする、で終わり。

④▲9六歩に▽4九角▲1六角▽同角成▲同歩▽4九角、と強引に▽4九角を実現する形。

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解説は、そのまま引用すると下記。

端歩が活きるはずで、先手としては不満がない。後手に先攻されるが、いずれにせよギリギリの勝負になる。

の2行のみで、これはもう解説とは言えないですね。結局ギリギリだし。というわけで定跡解説編のはずの第2章、第3章は、残念ながら共に「脇システムの紹介」程度の内容。知らない人が読む分には良いでしょうけど、ここを読んだだけで有段者が実戦投入するのは危険でしょうね。

そもそもこの棋書は、定跡部分が半分で、残り半分が実戦譜という構成になっています。つまり実戦譜がかなり充実しており、気になる指し方に関して実戦譜で解説してくれています。

むしろ前半の定跡部分よりも後半の実戦譜の方が密度が濃い内容で、ここからが本書の見所です。

 

<第4章 実戦編>

実戦譜①②③ ▽7三銀型(▲1五歩▽同歩▲同香)

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①はここから▽1三歩、②と③では最善とされている▽1四歩の実戦です。香で走る形の攻防はこの3局の解説で雰囲気はつかめる感じです。

 

実戦譜④ ▽7三銀型(▲1五歩▽同歩▲同銀)

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1筋を銀で交換する棒銀のパターン実戦です。以下▽4七角成に▲2四歩▽同歩▲1二歩▽同香▲2四銀、、と進んでいく感じです。

 

実戦譜⑤ ▽7三銀型(▽9五歩▲同歩▽同銀)

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これは端の交換を後手がひとつ省いて(▽1四歩の代わりに)▽4六角!とする指し方。昔ぼくが愛用していた指し方で、プロレベルでは咎められそうですが、アマレベルではそう簡単に咎められることはないと思います。得意な形で戦うことはなにより大事ですからね。

以下は▽4六同銀▲8四銀、と進んで後手が脇システムの形に。

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ここからは▲4一角▽9五歩▲同歩▽同銀と進んでいきます。そして投了に追い込んだ最終手が、▽1四歩を咎めた▲1五桂だったのが、さすがだなと思いましたね。

 

実戦譜⑥ ▽7三銀型(▲4八飛)

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この▲4八飛は一回受けに回り、6九の角を取り切るという指し方。角金交換になるものの、玉が薄くて指しこなすのは難しいとは思いますね。本譜の結果も後手勝ち。

 

実戦譜⑦ ▽7三銀型(▲1六歩▽1四歩▲6八角)

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▲1六歩に対して▽9四歩では無く▽1四歩と指したため、棒銀を狙って▲6八角とした局面。これは例の電王戦での1局と同じ展開で、少なくともここを読んでから最終章を読んで欲しいですね。

 

実戦譜⑧ ▽7三銀型(▲3五歩▽同歩▲同角)

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定跡編で、危険と解説されていた上図での▽3一玉の実戦。ここから▲3五歩▽同歩▲同角と仕掛けます。

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以下お互いに3筋と7筋を交換しあう展開となり、それは先手の得と見ているとのことですが、難解で一局の将棋という感じがします。実戦は先手の快勝だったので、参考になる棋譜ですね。

 

実戦譜⑨ ▽7三銀型(▲3五歩▽同歩▲同角)

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この局面から▲3五歩▽同歩▲同角と仕掛ける実戦譜。上図は後手としては前譜を考えると安易に▽3一玉とできない為、ここまでは必然の手順。

よってここで先攻できるのであれば先手としては面白そうに見えます。

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というわけで▲3五歩▽同歩▲同角の仕掛けというわけですが、実戦は後手の完勝。まあ後手が佐藤康光当時二冠であったということもありますが、先手としては工夫が必要とのこと。

しかしこれは工夫のしがいがありそうな局面だなとは思いますね。なんといっても玉の位置が違うので、なにかあれば相当有力ですよね。

 

実戦譜⑩⑪⑫ ▽7三角型(▲6一角▽5三銀)

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定跡編でも解説のあった▽7三角型の実戦譜。以下▽同角成から駒組みが続き、▲6一角と打ったのが下図。

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ここから▽5三銀の攻防を3局解説しています。ここからは先手の攻めと後手の受け〜入玉という展開になり、3局とも先手が勝っていますね。

 

<終章 GPS新手とその可能性>

第2回将棋電王戦第5局「三浦八段  対 GPS将棋」が脇システムでした。戦型を見た時は、三浦八段の勝ちを信じたものでしたが、、

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それがこの▲6八角とする形。1筋の突き合いを咎めるべく棒銀を狙った局面で、実戦譜編でも紹介がありましたね。

そしてここから▽7五歩▲同歩▽8四銀!と指したのがGPS新手。

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どうしても電王戦PVの阿部四段の「コンピュータとたくさん指していれば、あれを見てもそんなに驚かない」というシーンがチラついてしょうがない局面ですね。

これに関しての解説はかなり気になっていたのですが、内容として5ページしかなく、結論も「この手は成立していた」としか書かれていませんね。

 

というわけでなんだか予想外に不完全燃焼な一冊でしたが、脇システムの棋書はほとんど無いので、矢倉を指す人なら買っておく必要のある棋書なのは間違いないですね。まあでも電子版があるから、欲しい時にいつでも買えるからいいのかな。

 

推奨棋力:5級以上