豊島の将棋 実戦と研究

豊島の将棋 実戦と研究 (マイナビ将棋BOOKS)SUPER自戦記シリーズもあっという間に第5弾!ついに棋界のホープ「序盤中盤終盤隙が無い」でお馴染みの豊島七段いやもうすぐ八段の登場です。

本書は、2年前のB級2組順位戦の全11局(指し直し局含む)の自戦記集です。このシリーズでは定番となっている、自戦記の途中で解説や研究が挟み込まれている作りは今回も引き継いでいます。

最初に「B2の印象は力戦形が多い」と書かれていましたが、この自戦記の棋譜を全て並べてみると、これでもかという力戦形のオンパレードでした。

アマから見ると何気にB2って、今誰がいるのかすらよくわからず、順位戦の棋譜もA級はほぼ全て見る自分ですら、B1ですでに気になる対局しか見ないし、B2以下は昇級が決定する時とかに見るかもくらいというレベル。

なので今回は、こういう面々が今B2なのかあと思いながら見るのが楽しかったですね。よって将棋の内容としては、力戦形を的確に咎める豊島将棋、という感じの内容が多いです。特に陽動振り飛車含みの序盤戦が多いですね。

アマとしては、力戦形に対する指し方や考え方が研究ページとして別に説明されていたりして、かなり嬉しい内容となっています。冷静に将棋として見ると、9勝1敗なので当然差がついてしまった将棋が多くて微妙ですけどね。

そんな豊島七段の力戦形オンパレードB2全11局を見ていきましょう。

 

第1局 田村康介六段戦

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いきなり初戦から力戦の雄、田村六段戦です。ところがどっこい、将棋はなんと豊島七段の四間飛車穴熊対田村六段の斜め棒銀の戦型。

どうしてこうなったかというと、序盤で矢倉を目指した先手に対して、陽動振り飛車含みの手を後手が指した為、それを咎めるために先手は振り飛車を選択。そしてさらにその駒組み上、後手は急戦を限定させられたため、先手は穴熊を目指してこうなった、という感じです。

四間飛車穴熊党の自分もたまに指す形ですが、豊島七段は上図から▲7八金と指しました。しかしここは▲3九金から▲5八金と寄せていくのが普通ですよね。

おそらく次に▽7五歩とすぐに仕掛けられると思って▲7八金と手堅く指したと思われますが、▲3九金と指して後手の仕掛けを待つ方が振り飛車らしいかなと思います。

しかしながら、陽動振り飛車に対する指し方としては参考になる序盤で、さらに別の形の陽動振り飛車に対する研究も載っていました。

将棋の内容としては意外にも二転三転する好勝負でしたね。

 

第2局 青野照一九段戦

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この自戦記集の中では一番まともな定跡形ですかね。角換わり相腰掛け銀の▽6五歩型です。ここから▲6八飛〜▲4八金〜▲6九飛〜▲2九飛〜▲2七飛としてから仕掛けていましたね。例の一手パス合戦なわけですが、見ていてそんなに楽しくはないですね。

 

第3局 藤井猛九段戦

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B2へ落ちてしまった藤井九段との対局は、もちろん角交換四間飛車です。後手はここから▽1二香と穴熊を目指しますが、先手の藤井九段も▲1八香から地下鉄飛車を狙って対抗。1筋の激しい攻防となりましたが、激戦を藤井九段が制して豊島七段に黒星を付けました。さすがです。

そして投了図がこちら。

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藤井玉が7六まで逃走しているのが激戦の名残りですね。この1一飛の決め手もかっこいいです。

 

第4局 南芳一九段戦

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南九段というだけで陽動振り飛車含みの序盤というイメージですよね。本譜もまさに陽動振り飛車で、四間飛車に構えたところですが、豊島七段が機敏に仕掛けていき快勝。居玉とは言え、堅く見える▽3二金型の四間飛車ですが、あっさり攻め潰すあたりはさすがですね。

 

第5局 森下卓九段戦

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森下九段と言えば矢倉の森下システムですが、後手番だと本局のような右玉をけっこう指している印象ですね。しかし森下九段の右玉は、露骨に1手パスを繰り返すのであまり好きではないです。上図も手待ちをし続けている後手に対し、先手は穴熊に組んで万全の体勢を築いたところ。

とは言っても、ここから勝つのも大変と思いきや、豊島七段はやはりあっさり攻め潰してしまいました。最後は三枚穴熊がそのまま残る快勝。うーん、素晴らしい。

 

第6局 中川大輔八段戦

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中川七段としては比較的普通な横歩取りの戦型。と思いきや、いきなりここから▲4四歩と仕掛けていきます。しかしながらいまいち攻めが続かず、豊島七段の的確な反撃の前にノックアウト。本局も快勝でしたね。

 

第7局 安用寺六段戦

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本局もやはり陽動振り飛車含みの序盤戦。先手の豊島七段の「早めの▲5七銀から▲7八銀」が参考になる駒組みですね。ほんとに本書は陽動振り飛車が多いです。実戦はここから後手の右玉へと進みます。

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先手が穴熊を目指した局面。ここから後手は▽8五桂!と無理攻めで仕掛けてきましたが、▽6五歩▲同歩▽同桂▲6六銀▽6四歩のように指せば形勢難解とのこと。じわじわ指すのが右玉ですね。これまた見事に快勝の1局でした。右玉はたまに指すので勉強になります。

 

第8局 畠山成幸七段戦

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戦型は横歩取り▽8五飛の定跡形。豊島七段得意の戦型とあってか、横歩取り▽8五飛の歴史を辿る定跡講座が8ページにも渡って語られています。この8ページだけでそこそこ横歩取りマップになってるんじゃないのかな。ちなみに内容は下記8項目で1ページずつ。

・中住まい(7七角型)
・中住まい(7七角と上がらない指し方)
・▲3八銀型中住まい
・旧山崎流
・角交換型
・王手飛車定跡
・新山崎流
・新山崎流対策

王手飛車定跡なんてのもありましたねえ。そしてさらに本譜の▲6八玉型の定跡講座が別途3ページ続きます。

・▲4六歩以前
・▽5四歩型
・松尾流▽5五飛

松尾流▽5五飛も、初めて見た時は凄いと思いましたけど、あまり見ないまま消えていっちゃいましたね。この横歩取り▽8五飛ほど定跡の進化が早かった戦型も無いんじゃいないのかなあ、、と言ってもまだまだ進化途中のようですが。

 

第9局 北浜健介七段戦

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千日手となった第9局は、ゴキゲン中飛車対丸山ワクチン。定跡の一変化で、上図は後手が向かい飛車に振り直し、▽2一飛の前に▽4二金と上がったため、▲2四歩▽同歩▲3一角と先手が仕掛けた局面です。

昔、久保さんがタイトル戦で後手をもって指して惨敗した有名な局面ですね。当時、わざわざ危険な▽4二金を先に指すメリットは何だろう?と思ったのを思い出しました。

そしてなんとこの将棋、この直後に千日手になるのです。いやあ驚きですね。まあ、本当に後手が受け切れているかは分からない感じではありますが、豊島七段が踏み込めなかったのだから信頼性ありますよね。

ちなみに手順は上図から▽3二飛▲4二角成▽同飛▲2四飛に▽2二歩(久保さんは▽1二角)で、▲2三歩と踏み込めなかったとのこと。この形も▽2二歩で戦えるというのは発見ですが、そもそも▽4二金を▽2一飛より先に指すメリットがあるのかという、、

 

第10局 北浜健介七段戦(指し直し局)

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そして指し直し局は、横歩取り模様の出だしから横歩を取らずに▲2六飛と相掛かり風に引いた手に対し、▽2五飛という積極策。見るからに嫌な序盤戦ですよね。

自分はこういう「横歩取りを指そうと思ったのに、相掛かり風にされてガッカリ」という展開は大嫌いです。というか、どう指していいか難しいですよね。ちなみに本局は下図のようになりました。

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ここから▲3六歩に▽9五歩と反発して戦いが起こったのですが、豊島七段にしては無理攻めだったようで劣勢に。しかし最終盤で逆転勝ちしたのは、実力に加えて運もありますね、うん。

 

第11局 対杉本昌隆七段戦

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最後は杉本七段だから、普通の振り飛車が見られるのかなあと思っていたら、戦型はまさかの横歩取り▽8四飛に、、上図は▲7五歩と指した手に対して▽3六歩の手裏剣が飛んできたところ。▲同飛には▽1六歩▲同歩▽1八歩▲同香に▽8八角成〜▽5四角があって取れないんですね。

最近は横歩取りでこの2三銀の形+端歩を突き越す形が多いですよね。8一の桂も9三から使ったりと、どんどん進化していきますね。本譜は後に▽2四飛とぶつけていく展開になったんですが、▽2三銀から▽2四飛のような手は、一昔前は考えもしなかったですねえ。

そして飛車ぶつけがそのまま決め手となり、豊島七段の快勝で終わりました。そして何故か最後に、C級1組の時の棋譜解説が2局載っていましたね。

 

途中のコメントに「本書は横歩取りの将棋を多く収録している」とあったのですが、明らかに陽動振り飛車含みの将棋が一番多く収録されていたと思います。陽動振り飛車対策の棋書は皆無だと思うので、そういう意味でさりげなく貴重な棋書かもしれませんね。