永瀬五段と言えばやはり、NHK杯での対佐藤九段戦。2回の千日手後に勝利という将棋が印象的ですよね。平然と2回も千日手に持ち込んだのも驚きでしたが、さらにあの佐藤九段にあっさり勝ってしまったのでさらに驚きでした。
内藤九段とか数々の名棋士達が頑張って千日手を打開して負けたりとか、千日手を回避するのがNHK杯の暗黙の了解みたいなところがありました。あの将棋以降、千日手も勝負術の一つとして本当の意味で定着したような気がします。
そんな「負けない将棋」永瀬五段の、自戦解説をしながらの中終盤の解説書が本書の内容となります。トップアマクラスの聞き手との対話形式となっており、ややくだらない感じのトーク内容が微妙に邪魔な作りとなっており、そこは残念な感じでした。
初めて読んだ時は、ふーん、という可も無く不可も無くといった感じの印象しか受けなかったんですが、もう一度読んでみると、なるほど、と納得しながら読み進めることができました。
つまりまあ、内容が軽いトークとは裏腹に、やや難易度が高かったのかな?と思います。あと自分は攻め棋風なので、内容に違和感を受けることが多かったせいかもしれません。そういうわけで内容をご紹介。
第1章 三間飛車
もともとプロデビューした頃は、珍しいノーマル三間飛車党だった永瀬五段。その頃の、いわゆる古めの棋譜を題材にした自戦解説になっています。
ノーマル三間に加えてもちろん石田流も載っており、参考になる手筋も多く勉強になります。特に、その局面での形勢判断と、それに基づく指し手の方針の決定方法が面白いですね。人によって意見が違うところかと思いますが、永瀬五段のそれは理論的でなるほどという感じです。ただどうしても指し手自体は違和感を感じてしまうんですけどね。
しかし将棋というのは、違う感覚を取り入れるのは非常に大事なことだと思うので、永瀬流を肌で感じることのできるこの棋書は貴重ですね。
第2章 中飛車
プロ入りしてノーマル三間だけではなかなか勝てない永瀬五段が新戦法に着手。それがゴキゲン中飛車です。そもそも受け棋風の人が、受ける戦法を使うと、攻撃力不足になってしまうんですかね。攻撃的な戦法+受け棋風はベストマッチなのかもしれません。
というわけで、本章では永瀬五段の中飛車の自戦解説です。永瀬五段の序盤の研究の深さが感じられる内容でしょうか。もちろん独特の中終盤の指し口も健在です。
第三章 相振り飛車
振り飛車を指すと避けられないのがこの相振り飛車。急所をつかみにくい局面が多いなかでの永瀬五段の考え方は勉強になります。
特に、金無双から美濃囲いに組み替えたのは驚きでした。金無双からは上部に盛り上がっていくとかは指したことがありましたが、美濃囲いへと変形しようとは想像外でしたね。
そして以下第四章でその他(戦型に関係なく印象深い局面を選んだとか)があり、最後にコラムがあるんですが、さらに衝撃的な内容が、、、
それは、千日手のストックを用意してある、ということでした。どういうことかというと、こういう形からは、例えば飛車の横の動きで千日手にできる、とか、そういう千日手に持ち込む手筋をいくつも準備してあるということですね。
こういう発想は無かったですね。これからの時代、負けない為にはこういった技術も必要なのかもしれません。