近代振り飛車と言えば「先手石田流」と「後手ゴキゲン中飛車」ですが本書はなんと、「先手ノーマル三間飛車」と「後手ノーマル中飛車」の棋書です。
完全に時代に逆行しているようにも見えますが、そうでもないのです。先手ノーマル三間飛車は、これ一本で将棋倶楽部24の高段にいる人も何人かいますし、後手ノーマル中飛車は、プロの矢倉さんが考案した矢倉流中飛車ですので、プロにも通用するレベルの戦法です。
この2つの戦法は、どちらも居飛車穴熊に駆逐されたイメージがあり、実際に指していると8割の相手が居飛車穴熊に組んできます。そして、居飛車穴熊に組むのを防ぐ術がほぼ無いというのも共通しており、基本的には穴熊に組ませて戦うことを想定した棋書となっています。
3章のみ矢倉流中飛車からの相穴熊の解説となっており、特に矢倉流中飛車の解説書はほとんど無いので、そういった意味で貴重な棋書ですね。まずは1章から見ていきたいと思います。
<第1章 先手三間飛車編>
まずはノーマル三間飛車編。下図が基本図となります。以下▽1二香から穴熊を急いでくる順と、▽5四歩〜▽5三銀を急ぐ順の2パターンを解説しています。
居飛車穴熊に対する三間飛車の指し方はおおまかに以下の3つ。
A:向かい飛車に振り直す
B:▲4五歩の位を取るコーヤン流
C:石田流
Aは他のノーマル振り飛車(主に四間飛車)からの変化もあり応用が効く形で、向かい飛車からの速攻を狙います。Bはコーヤン流=三間の藤井システムと言ってもいいような戦法で、角のにらみと端攻めで攻める形。攻撃力はありますが玉が薄く反動が厳しいですね。そして本書ではCの石田流への変化を紹介しています。
この石田流への形は、受け棋風の人に適している戦法と思われます。と言うのも、受け続ける展開が多くなる形だからです。受けが大好きな人、または受けを修行したい人向けです。ちなみに自分は受けの修行の為、一時期こればっかり指していました。
さて、とにかくこの形は攻めのパターンをマスターするしかありません。以下は本書で気になった変化を紹介します。
上図は▽4四銀に対して▲6五桂とした局面です。銀が5三の時では▽6四銀があるので成立しませんが、これで攻めが決まっています。
▲6五桂以下、▽4二銀右や▽6四歩としても▲7三桂成〜▲9五角で先手優勢ですね。こういうのは知っていないとなかなか指せないですよね。
そして次は、居飛車から定番の仕掛け、引き角から▽8六歩▲同歩▽7四歩▲同歩▽8六飛▲同飛▽同角の局面から▲8七飛!と打ったところ。
これも知らないとなかなか指せない手ですね。以下は▽8五歩▲同桂▽4二角と進みますが、単に8二飛とするよりかなり得していますね。これも知らないと指せない手で、こういう手筋が多いのもこの形の特徴です。
また、この章の最後には玉頭銀と呼ばれる形も紹介されています。(下図)
これもちょいちょい出てくる形なので、大事な変化ですね。ここから▽4四歩、▽4四銀、▽5五歩の3パターンを解説しています。
<第2章 後手矢倉流中飛車編> & <第3章 相穴熊編>
2章から3章にかけては、後手番用の戦法として矢倉流中飛車を解説しています。基本図は下図で、ここから▲9八香と穴熊を急ぐ順と、▲5八金右から▲6八金寄と先に固める順の2パターンを解説しています。
見たとおり、ほんとのノーマル中飛車の出だしですが、もう少し進んだ下図でその特徴が現れます。
それがこの形です。▽6四銀▲6六銀の形から▽4二飛とした形、これが矢倉流中飛車と呼ばれる形です。通常の四間飛車からでは不可能な▽6四銀の形を得て、手薄な4筋へと展開します。
これはかなり欲張った形と言えますが、その分優秀です。この戦法は、名前はそれなりに知名度はあるものの、まともに棋書になっていないので、この図の形は知っていても内容は知りませんでした。そういう意味でこの棋書は価値があります。
と言ってもプロ間で流行しているわけでもなく、自分も指したことが無いのですけど、いつか実戦投入してみたいと思っている戦法のひとつです。ちなみに3章の最後には先手番の指し方も載っています。
<第4章 実戦編>
これはまあ自戦記編なわけで3局あるのですが、相手がなかなか。一人目は稲葉さん、二人目が天彦さんで3人目が横山さんです。そして全て勝ち将棋なので、ノーマル三間と矢倉流中飛車の優秀性が感じられるのではないでしょうか。
一見地味ながらその内容は振り飛車党には大事な一冊です。たまに読み直してしまいますね。
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