ついに本家?と言っていいのか分からないけど、藤井九段著の角交換四間飛車本の登場です。最近はその流行のせいか角交換四間飛車の棋書はちょいちょい発売されていて、自分も発売されたものはほとんど一応買って読んではみるもののしっくりくる棋書はありませんでした。
というのも、いざ実戦投入すると未開拓な戦型のためか居飛車の対応がバラバラ。角交換四間飛車としても囲いは片美濃まではほぼ固定されているものの、左銀と左金の使い方が分からず、そもそも向かい飛車に振り直した方が良いのか四間のままで戦うのが良いのかすら分からないという感じ。
自分なりの形を見つけようと何十局かはトライしてみたんですけど、結局見つからずに封印してしまいました。そして1年以上経ってしまって、今では指すことは無くなってしまったのですが、やっぱり本屋で藤井九段の本を手に取ると反射的に買ってしまいますね。藤井九段の棋書でハズレは無いと言ってもいいですからね。
というわけでこの棋書は久々の「指しこなすシリーズ」で、この体裁については賛否ありそうですが、その戦型の初心者に対しては非常に分かりやすい作りであるのは間違いないと思います。その反面、上級者にはちょっと物足りない感じがしてしまうのは否めないところ。
まあでも角交換四間飛車の初心者、というか途中で挫折したぼくとしては丁度良い感じでした。まずは「第1章 予行演習」では、やらせ手順ではあるのですが角交換四間飛車の基本の構えとその狙い筋が非常に分かりやすく解説されていました。
この第1章を読むだけで、なんだか目の前の霧が晴れたような感じ。まずは囲いは普通の美濃に組み、飛車をどのタイミングで向かい飛車へと振り直すのか、また左銀の使い方は。逆棒銀に出る時と出られない時の形とは、そして出られない時のその後は、などなど、基本中の基本なんですけど、今までここまで簡潔に分かりやすくまとめた棋書は無かったかと思います。
これは通常の定跡書では伝えづらい部分で、本シリーズならではの体裁によって非常に理解しやすく読みやすい一冊に仕上がったのではと思います。というわけで内容を見ていきたいと思います。
【第1章 予行演習】
前述したようにこの第1章では、角交換四間飛車の基本的な指し方を分かりやすく解説しています。ここではぼくが気になった箇所を紹介していきます。
まずはこの局面。逆棒銀がうまく炸裂したところです。
▲8三銀不成▽6二飛▲8二銀不成と、不成二連発で突っ込んでいったところですが、こういう局面はつい▲8三銀成〜▲7二成銀とかしてみたくなったりしませんか?
しかし本譜のように不成二連発でいけば、さらに次に▲7一銀不成!〜▲8一飛成が早いですね。その他にもこの形ではよく出てくる▲7一角▽8二飛▲5三角成!から飛車先突破の筋などが解説されています。まあ棋書では良く見るけど、実戦では見たことないですけどね。
また、逆棒銀に出られないのは下図。
▽7四歩と突かれるだけでもう逆棒銀は諦めないといけないんですね。なんとなくそんな気はしてましたけど、よく分からないから逆棒銀自体指したことなかったですね、、
上図以下は▲6六銀〜▲7五歩!と軽快に動いていく形を解説。このあたりの指し方は非常に勉強になりますね。そして最後は後手が飛車先を突いてこない場合を解説。
この場合は争点が8五なので、▲7七桂型になります。ここから単に▲8五歩▽同歩▲同飛で良いのか悪いのか、その判断基準やその後の指し方などなど、分かりやすく解説してくれてます。ちなみに上図では▲7一角が正着。
という感じで一通りの基本を学んだところで本章へと突入です。
【第2章 「逆棒銀」とさまざまな敵】
サブタイトルが面白いですが、ぼくが逆棒銀を指したことが無い理由のひとつはこの「さまざまな敵」が怖すぎるからに相違ないです。やっぱり将棋の基本として「お互いの飛車がにらみ合っている状態では、間に駒がある方が危険」というのがあると思うんですよね。
ぼくみたいな中途半端な棋力の中級者は、どうしても体が拒絶反応してしまうんです。だからこの逆棒銀は、深く考えない初心者か、研究済みの上級者にしか指せない指し方です。でもほんとは指してみたいですよね。だって、これこそが角交換四間飛車って感じですもんね。
というわけで本章ではぼくの嫌いな「さまざまな敵」がやってきます。ここではぼくが答えに迷った問題を紹介したいと思います。まずはこちら。
後手が無策で逆棒銀を受けたところですが、▲8六歩▽同歩▲同銀の時に、▽8七歩▲同飛▽7八角▲8八飛▽6九角成となった局面です。次に▽7九馬▲8七飛▽7八馬でジエンドな局面でもあるわけですが、ここでの対応はいかに。
こういう形は、色々と手筋めいたものが見えてしまって、「あれ、どれがベストなのか分からな〜い!」となりがちな人もいらっしゃるかと思います。はい、ぼくがそうです。
ぱっと見ただけでも▲8五歩や▲9六角、▲6八角などなど、というかこの3つくらいかな。まあ1つ1つ落ち着いて読めば答えは分かるんですけど、こういう局面でパッと正着を指したいですよね。それはもうノータイムで指したいです。
それでは正解はどれでしょうか?、、、はい、ブー!それは間違いです! 実は上の3択に正解が無いんですよね。ごめんなさい、、というわけで正解は▲8五銀!でした。▲8六飛と逃げる空間を作るんですね。なるほどですね。
でも▲8五銀に、もしも▽1六歩▲同歩▽同香!▲同香▽8七歩!とされたら?
こういう手を指されたら「しまったー!」と心の中で叫んで汗ダラダラになりそうですね。でも本書にはもちろんこの変化も解説してあります。良かったです。ほんと良かったです。続きは是非本書を手にとってください。
というわけでこんな「逆棒銀とさまざまな敵」たちの物語は続いていきます。本章はほんとにありとあらゆる手筋が出てくるので、めちゃくちゃ勉強になりましたね。
【第3章 7筋での動き】
お次は、逆棒銀に出られない時の指し方になります。ここも非常に重要です。なんと言っても前述した通り▽7四歩とされるだけで逆棒銀が使えないわけですから、むしろほとんど使えないんじゃないかと思われるくらいですからね。
そんなときは▲6六銀から▲7五歩と動いていくことになるわけですが、その「7筋での動き」が本章のテーマ。実はぼくは7筋で動いてうまくいったことがありません。というのも例えば下図。
とりあえず7筋で動いて1歩手にした局面ですが、1歩を手にしたから一体何?と思ってました。むしろ▲7五歩▽同歩▲同銀としたところで▽4四角!とされる手が気になって指せませんでした。
もちろん本書では後で▽4四角の解説もありますが、とりあえず上図。ここでいきなり先手から動く手があります。それは何でしょうか?
はい、ぼくは全然見えなかったですが、なんと▲7二歩!という手があるんですねえ。▽同飛でどうするんだと思いましたがそこで▲8六歩!が間に合うということみたいですね。なるほど、間に合うんですねえ。そして気になる先程の▽4四角の局面がこちら。
実はさっきの局面とは少し違って、後手の右銀が7三ではなく6二で▽6四歩が突いてある形です。残念ながらさっきの局面での▽4四角は解説がなかったですね。残念ではありますが、ここでの正着は▲6六角!▽同角▲同歩、でした。
簡単そうに見えてこの順はけっこう怖くてなかなか指せない順ですね。そう、この角交換四間飛車という戦法は、こういう怖くて指しづらい順ばっかり出てくるんですね。いやあ、やっぱり指せないなあ、、
【第4章 腰掛け銀との戦い】
なんだかんだと第4章までやってきました。そしてついに居飛車の本命「腰掛け銀」との戦いです。腰掛け銀とはつまり▽6四歩〜▽6三銀〜▽5四銀とする構えのことですが、四間飛車に対して▽6四歩とするのは挑発的な感じがしてしまいます。
もう反射的に▽6四歩には▲6六歩と突きたくなりますが、どうやらダメみたい。結局▲6五歩▽同歩▲同飛としても直後に▽7八角!があってダメなんですね。
これも言われてみれば簡単ですが、ここに辿り着くのは自力では大変ですよね。定跡さまさまです。ちなみにこの▲6六歩が成立するのは、左金が6九のままの場合のみになります。▽7八角が無いですからね。その形については本章の後半で解説があります。それがこんな形。
なかなか振り飛車としては好形ですね。以下は8筋に展開して逆襲していきます。というように本章では▲6九金保留型向かい飛車と、四間飛車の2パターンを解説してあります。
【第5章 飛車先保留との戦い】
そしてラストは飛車先保留型です。最初は居飛車が穴熊を目指す形から。
この形では向かい飛車から▲6六銀〜▲7七桂の形が基本でした。そして▲8五歩▽同歩▲同飛を狙うわけですが、もし飛車交換に出てもいいか迷った場合。よくあると思いますが、そんな時の指し方について解説があります。
本書は本当に解説が丁寧で、この形だけに通じるという解説ではなく、この戦型の根本的な考え方を伝えようとしてくれているのがよくわかります。ちなみに迷ったら▲1六歩、なのですが、このタイミングで端歩を突く意味まで書いてくれているのでとても嬉しいですね。
そして本当にラストがこの形。
腰掛け銀+平矢倉の構えで、これが居飛車の最強の布陣とのこと。もう居飛車党はここから読んでもいいんじゃないですかね。この形を目指せば簡単になりそうですからね。
というわけで居飛車も指すぼくはここはしっかり読んでおこうと思ったのですが、本シリーズの特徴として「相手側が優勢になるような結論では終わらない」というのがありますね。まあでも藤井九段が「最強の布陣」と言うのだから、その他棋書で重点的に勉強しておこうかなと思います。
おおざっぱに見てきましたが、以上になります。やっぱり藤井九段の棋書は安定感が抜群ですね。言葉に説得力があります。次は是非「藤井矢倉を指しこなす本」を出して欲しいなあ。
推奨棋力:10級以上