2手目3二飛戦法を開発したことで有名な、トップアマの今泉さん著の「初手▲5六歩からの先手中飛車の本」です(一部向かい飛車有り)。タイトルからは内容が分かりにくいですね。
アマ棋界のことは全く知らない自分ですら、今泉さんが中飛車一本で指すようになったことを知っていたので、その知名度はアマの中では断トツでしょう。
本書の概要としては、初手▲5六歩からの中飛車に対しての5つの形と、5筋位取りを拒否された場合の向かい飛車の形、計6個の形に関しての解説書になっています。
それぞれでまず今泉さんの実戦の解説。そしてそれに対する修正手順だったり、気になる変化を研究していくという作りになっています。
特に特徴的なのが、プロでは選ばない形だけど実戦的に指されたら難しい形への解説。そして形勢判断のポイントが「勝ちやすい」かどうかということ。例え駒損で微妙に見える局面でも「先手勝ちやすい」などの形勢判断となっているのが面白いところ。
プロの書く棋書では形勢判断で「勝ちやすい」とか「勝ちづらい」という言葉は、ほとんど使われないですよね。アマにとってはその局面が優勢か不利かよりも、勝ちやすいかどうかが全てであるわけで、そういう意味でアマならではのアマのための本であると言えるのではないでしょうか。
それでは各章ごとに見ていきたいと思います。
第1章 角交換型
相手が居飛車党の場合は、最もオーソドックスな進行ですね。上図から▲2二角成▽同銀▲8八銀とするのが、本章の角交換型の基本図です。
この▲8八銀の一手により、次に▲5五歩からの5筋交換が可能になっています。(▲5五歩▽同歩▲同飛▽4四角に▲5八飛を用意。)
ここからの居飛車の指し方は二通りで、①▽5三銀と②3二玉。
①▽5三銀の場合
▽5三銀とした場合、居飛車の金銀の位置は色々ありそうですが(▽4二銀左や▽4二金上として中央を手厚くする指し方等)無策で囲うとこんな感じになりますかね。本譜は今泉さんの実戦の進行で、それを自戦解説されています。
上図は中飛車としてはこれ以上無い絶好の構え(▲6六銀〜▲7七桂〜▲4六歩)となっており、以下▲5五歩▽同歩▲同銀▽5四歩に▲6五桂!以下攻めが決まります。
②3二玉の場合
▽3二玉とすれば、▽6四歩〜▽6三銀が形で、上図のように押さえ込みのようになったのが今泉さんの実戦の進行。ここでの▲3六角!がなかなかかっこいい手ですが、実はあまり良く無かったようで、ここから劣勢に陥ります。
その自戦解説の後は、ここでの修正案として▲5五飛とする手(▲8五飛を見せて▽7三桂と跳ねさせ、その桂頭を攻めるという高等戦術)や、銀冠を目指してゆっくり指した場合の解説があります。
第2章 相中飛車編
個人的に一番興味があったのがこの相中飛車編。というのも、自分の中飛車対策がこの相中飛車だからです。指し始めたきっかけは、考えるの面倒だから相中飛車で力戦にしちゃえ!という適当なものだったのですが、勝率が良いので採用し続けています。
しかし自分が指す相中飛車とは、基本図が実は違います。
と言うのもこの上図の形、一見平凡な相中飛車に見えますし、本文中に特に解説は無いのですが、過去に鈴木八段が著書の中で「この局面で▲6八銀とできず▲7七角としても▽同角成以下劣勢になる為、先手は避けなければいけない形」として紹介しています。
つまり、ここで今泉さん独自?の構想があるわけですが、それがこの局面での▲7五歩!
なるほど、最近流行りの三間飛車に転回する構想ですね。今見ると普通の一手に見えますが、以前は角交換が出来る形での三間飛車というのはなかなか無かったのではと思います。
それでまずこの章の第1節では、この形になる前に後手が▽4四歩と角道を閉じてきた場合の指し方について研究しています。
これはプロでは▽4四歩はあり得ない指し方と思われるので、そこに自戦解説を入れてくるあたりがアマならではと感じます。実際に▽4四歩と指された場合、じゃあ具体的にどうするの?という疑問に答えてくれる良い内容でした。
そして第2節では、▲7五歩以下、お互いに三間に振り直す形を解説。
続いて第3節では、この▲7八飛とするときに最も気になる▽5五歩の開戦について解説。
自分も相中飛車を指す時は、同じく飛車を移動するので気になる変化でした。まあでも、やはりこの▽5五歩は成立しないみたいですね。自分の実戦でも▽5五歩といきなり指されることはほとんど無いように思います。
第3章 対一直線穴熊
今泉さんが最大の難敵と評しているのが、この一直線穴熊。まず第1節では、美濃囲いでの戦いを解説しています。
これが基本図で、ここからゆっくり囲い合うとどうなるかをまず解説。そしてゆっくり囲い合っていると劣勢になるということで、振り飛車から▲6五銀!と動く形をその後に解説。
ここからの居飛車の対応策は▽4二角や▽8四飛などいくつかあり、それぞれを順番に検討していて必見です。ぱっと見た感じは、簡単に振り飛車良くなりそうに見えますけど、簡単では無いんですねえ。
第2節 相穴熊編
目には目を、穴熊には穴熊を。ということで相穴熊編は、プロでもよく指されている上図が基本図です。以下▲3八飛がうまくいかないことを確認した後、今泉さんの研究手順の解説があります。
それが、プロではダメとされている(はずの)▲3四歩を入れてから囲いに手を入れる順。
今泉さんの主張としては、この▲3四歩が入ったまま戦えないでしょう、と言っているわけですね。たしかにそうだと思います。ぼくもこの▲3四歩は入れてしまっていいんじゃないかと普通に思いますね。
第4章 左穴熊の戦い
ここからは対三間飛車、対向かい飛車への解説になります。この第4章は対三間になりますが、この章こそ、本書の真骨頂と言えるのではないでしょうか。
一昔前は「中飛車には三間飛車が良い」というのが常識だったので、自分もよく指していたのですが、、
ここからなんと左に囲にいくのがこの左穴熊という戦法。とりあえず左穴熊と聞いてもピンとこない人もいるかもしれないですが、この形です。
一見、居飛車穴熊に見えますが、振り飛車から左に穴熊を囲ったということで、居飛車穴熊と差別化を図るために左穴熊と言うんでしょうか。
これが指されるとかなりやっかいな戦法でして、自分も三間飛車側をもって数回戦ったことがありますが、これが嫌で三間飛車を辞めたほど。
ノーマル三間飛車のスタートからでも飛車先さえ突かなければこの形に誘導できるので、ぼくの中ではノーマル三間の選択肢もこの戦法の為に消えました。
しかし、ぼくの知らないところでこの上図の形は修正されていたようで、早めの▲5六飛には▽3三銀〜▽4四銀型が優秀で後手優勢みたいですね。
今泉さん自身も、それで使わなくなったそうですが、まさかの菅井五段が修正案を加えて左穴熊を実戦投入したのが下記。
3筋を▲5六飛で受けずに、▲3八銀で受けるのが菅井流。なるほど、そういえば最近のプロの実戦で見かけた時に、なんで▲5六飛としないのだろうと疑問だったのが、この章を読んでやっと理解できました。
この戦法に関する棋書は杉本七段が執筆中かもしれませんが、それが出版されるまではこの棋書が唯一の棋書かもしれないので、ここだけでも読む価値はありますね。
そして第2節では後手も穴熊にする相穴熊編を解説。
また第3節では後手が向かい飛車にしてきた時の左穴熊を解説。ここも再び菅井五段の実戦譜を紹介しています。なるほど、対向かい飛車にも使えるんですね。
第5章 向かい飛車編
ここだけが唯一中飛車ではなく、自らが向かい飛車にする指し方を解説しています。それがこの形。
今泉さんはこの序盤限定で向かい飛車を採用しているようです。ちなみにぼくは初手▲5六歩は指しませんが、初手▲7六歩から▽8四歩▲5六歩▽8五歩▲7七角▽5四歩▲8八飛という手順での上図の形はたまに指します。
この形は▽4二玉とした時に▲8六歩▽同歩▲同角や、角交換してから▲7五角など、非常に大技が掛けやすい形をしています。そしてこの大技、かなりヒットします。将棋倶楽部24で二段以下で早指しという条件なら、高確率で対応を間違えると思います。
本書では後手が▽3四歩を突いている形のみなので、角交換からの▲7五角に対して詳しい解説が載っています。意外とぼくの実戦では危険を感じてか、▽3四歩を突いてこないことも多いと思いますけどね。
そして最後の第6章は、今泉さんの実戦からの「次の一手問題」がなんと46問も収録!プロとの対局からも数多く出題されており、ここだけで面白いミニ自戦記集のような感じ。
しかしながら、何故か中飛車の実戦からの出題というわけではないのが、やや違和感あります。一問目が2手目3二飛戦法だったりするのでね。
以上になります。アマの振り飛車党は必見の、非常に面白い充実した内容だと思います。言葉ではうまく伝えられないですが、プロが書く棋書とは、棋譜といい、形勢判断といい、かなり味わいが違う一冊です。
こういう棋書は今後なかなか発売されないでしょうし、価値ある一冊と思いますね。ちなみにAmazonでは電子書籍のKindle版も同時発売されており、値段も安くお薦めです。
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