前回のNHK杯戦で、本書の著者である大石六段がこのダイレクト向かい飛車を駆使して準決勝まで進出したのは記憶に新しいところ。
特に羽生三冠を相手に完勝したのはインパクトありましたね。
つまり非常に優秀な戦法であることが証明されたと思いますが、しかしながらこの戦法、使うのにはなかなかハードルが高い戦法でもあります。
なぜならば、序盤の▲6五角(下図)に対する研究が無いと指せない戦法だからです。現在でもまだこの形の優劣が決まっているわけではなさそうで、プロの実戦でもこの形は登場しています。(2014年4月現在)
ぼくが観ている限りでは先手の勝率が高そうに思いますが、後手もちょくちょく勝っているので、正直よくわからないですね。プロも一戦毎に指し手を細かく変え、現在進行形で進化中と思います。
さて、本書では第2章で約50ページほどこの形を解説しています。さらに、もうひとつ気になる形である▽6二玉としたタイミングでの▲6五角に対しても第3章として解説があるのも本書の見所。
この形に関して解説してある棋書は他にないと思いますので貴重ですね。それでは各章ごとに見ていきたいと思います。
<第1章 対持久戦型>
・第1節 ▽4四銀型
この戦法では、最もオーソドックスな持久戦の形である▽4四銀型。上図がよくある基本形と言えますが、ここからは先手が穴熊へ、後手が銀冠へと組み替えてさらなる持久戦を紹介してあるのみ。
千日手模様の将棋になるので、指し手が相当に難しいというか、後手としては待機するだけなので解説のしようが無いのですかね。自分もこういう形は2手目3二飛戦法や、角交換四間飛車などで指したことがありますが、どうしていいか分からない感じになりますね。
残念ながら本書では、この形に対する解説としてはほぼ皆無と言っていいでしょう。
・第2節 ▽2四歩からの仕掛け
ダイレクト向かい飛車にしたからには、手得を活かすためにも▽4四銀型よりもこの▽2四歩を狙って行きたいところ。▽4四銀型ならどうせ手詰まりになるので、角交換四間飛車から指せばいいですからね。
ここでは居飛車が▲3六銀とする形と、▲3六歩〜▲3七桂とする形、基本の2つの形に対してのそれぞれの対策を解説しています。
この▽2四歩に対しては、上記二つしか指し方としては無いでしょう。そしてそれぞれの基本の指し方が解説されているので、ここを読めば実戦投入は可能と思います。ぼくも一度使ってみたことがありますが、破壊力抜群でしたね。
<第2章 天敵▲6五角>
というわけで、この戦法はかなり有力だと思っているのですが、なかなか指すことが出来ない理由が、この▲6五角問題。
まあ実際問題、この手は指す方も相当に研究が必要となるはずなので、指されることは少ないのではと推測はしますが、心に不安要素を抱えたままでは思い切って指せないのもまた事実。
そしてここからの指し方は4パターンあるので、順番に見ていきましょう。
・第1節 一歩得対手持ち金
基本図から▽7四角に▲4三角成から金を取って▲7五金と打つとこのような形になります。これが「先手の一歩得対後手の手持ち金」の基本形です。
もう嫌ですよねこの後手の形。右玉好きのぼくですら嫌ですね。この形で勝とうというのがそもそも間違いなのではと思うほど。最近のプロの実戦もこの形が多いですね。3六の歩と7六の歩を狙い▽5四角と打って手を作っていくようです。
・第2節 4筋対7筋
▲5二馬から▲7四金ではなく、単に▲7五歩とする形。先手としては第1節の形より一歩損してしまうのだが(実際は4三の歩を取っているので歩の損得は無い)金が手持ちではないことが主張になる。以下はやはり第1節に似た形となり、▽5四金と活用することになる。
・第3節 ▽7二飛に振り直し
▲6五角に対して▽7四角▲同角▽同歩▲7五歩と進み、▽7二飛と振り直した局面。大石六段が羽生三冠を破ったのがこの形ですね。以下は相居飛車の角換わりのような将棋になります。
羽生三冠に勝ったのだから、この形はそれなりに後手も有力なのだろうけど、振り飛車党には指しづらい形であるため、どうしても振り飛車にするのであれば次節の▽7二金を選ぶことに。
・第4節 ▲7五歩に▽7二金
以下▲7四歩とされてしまうので、その7四の歩をどうするかが序盤の焦点。先手から素早く左銀を7五に繰り出す構想と、7四の歩は気にせず指す構想と二つあり、それぞれに解説があります。
<第3章 時間差の▲6五角>
この手に対する正着が分かるでしょうか?
ぼくは分からなかったです。この局面に出会ったとしたら、初見で正着が見える人はほとんど居ないと思います。
そんな正着とは、、
▽7四歩!
いやあ驚きです。凄いですね。そしてこの章では以下、第1節で▲4三角成、第2節で▲7四同角に対して解説してあります。これは知らないと指せないですね。
<第4章 ▽9五歩型>
最後に解説するのは、一昔前ならこの形がダイレクト向かい飛車の代表的な形である▽9五歩型です。ここから先手の指し方は3パターンあります。
・第1節 ▽9五歩型対▲7八金型
▽9五歩以下▲7八金に対して▽8八角成とすると、この形になります。つまりこの▲2四飛の時に▽3三角が両取りにならないので2筋交換が可能なのが先手の主張。激しい戦いになります。
ちなみに▲7八金に対しては▽8八角成ではなく▽4二飛とするのが本命のようです。持久戦に持ち込んで▲7八金を緩手にするという発想でしょうか。
・第2節 ▽9五歩型対▲6八玉型
▽9五歩に対して▲6八玉とすると、またもやこの▲6五角が登場します。以下▽7二飛と回って▽9六歩から仕掛ける形や、右玉のように指す形などが解説されています。
第3節 ▽9五歩型対▲4八銀型
これには▽8四歩!として相居飛車戦に持ち込む指し方を解説しています。プロの実戦例も1局しかないらしい未知の局面です。
ここからは横歩取りのように進むか、▲6六歩としてきたら振り飛車にする指し方などが解説されています。
第5章は実戦編となっており、大石六段の自戦解説になっています。3局ありますが、何故か全て敗戦譜。こういう棋書では異例ですね。とは言え、参考になる自戦記です。
以上です。どうしても▲6五角が怖くて実戦投入が出来ないですが、有力な作戦ではあると思うので、研究して指してみたいなあと思ったり思わなかったり。後手番用の切り札として用意しておきたいとは思うんですけどね。
推奨棋力:5級以上