杉本流 相振りのセンス

杉本流相振りのセンス久々に出ましたね、杉本さんの相振り本。実はぼくは杉本さんの棋書がけっこう好きだったりします。

杉本さんは相振り飛車の本もいっぱい出していますが、その他にもけっこうマニアックな戦型、例えば四間飛車対右四間飛車とか、端歩位取り穴熊だとかの棋書があって、棋書マニア的には重要な棋書が多いのです。

そして本書もマニアックな形が多く紹介されており、やはりマニアックな形で1発ガツン!と勝ちたいぼくとしては非常に良書です。

相振り飛車って進化が早すぎて、数年経つと全然違う形になってしまいそうですが、マニアックな形はアマ間では10年後も活きる可能性があるので大事です。

また相振り飛車の本は意外と数がありますが、どれをとってもこれ一冊でバッチリだ!という棋書が存在していなかったと思います。なんと言っても飛車の位置と玉の組み合わせだけでも数が多いですからね。

昔は向かい飛車+矢倉が最強だ!とか言っていて、そのうち三間飛車+美濃囲いがいいだとか、いやいや金無双も復活だとか、相振りでも穴熊でしょ、みたいなこと言われたりとか数知れず。 一言で言えば、「相振り飛車って何が最善なのかもうわかりません」って感じですよね。

おそらく杉本さんもそんな実感を持たれているのではないかと思います。 なぜならこの棋書のテーマは「相振りのセンス」ですからね。

センスというのは形が変わっても活きるので、また数年後には相振り飛車の形は様変わりしているかもしれないですが、このセンスがあれば乗り切れる!と杉本さんは訴えかけているのでしょう。

まあ基本的にはいつも通りの最新形の解説書という作りなのですが、随所に「相振りのセンス」としてポイント解説が入るのが本書の最大の特徴、というわけです。それではどんな感じなのか見ていきましょう。

 

<第1章 現代の相三間>

第1節ではまず、相三間飛車として最もオーソドックスと思われる相三間+相高美濃の形を解説しています。昔は相三間なんて特殊戦型として扱われ、たいした説明が無かったんですが、ついに相振り飛車の筆頭として扱われるようになったんですね。昔は石田流対策の為にあらゆる相振り飛車棋書の相三間だけ読みあさったものです。

さて、それではこの第1節で出てくる「相振りのセンス」をピックアップ。

①受け切りは考えない
②8八角成の対応
③飛車で揺さぶる
④左桂の使い方
⑤角筋を通しておく

以上5つです。ひとつひとつ見ていきましょう。

①受け切りは考えない

これは先手番では受け切ろうとするよりは攻め合い勝ちを目指した方が勝ちやすいということのようです。将棋は攻めと受けで迷ったら攻めの方が良いのかもしれないとも書いてありますが、おそらくそれが顕著に出やすい戦型、と言えるかもしれません。まあでも先手番の相振りセンスかな。

②8八角成の対応

これに同銀と同飛がある場合ですが、同飛から考えた方が良いことがあるということ。どうしても同銀としそうですけど、同飛から8筋の歩を伸ばしていく形を1手早く実現できるので、それを視野に入れて考えた方が良いということですね。現代将棋はスピードが命ですからね。

③飛車で揺さぶる

これは例えば飛車先の歩を交換した時に、通常は▲7六飛や▲7八飛ですが、▲7五飛と中段に浮いて右側に展開するような牽制をするということです。これはたしかに向かい飛車からでも▲8五飛とするかどうかは自分もよく考えます。希に▲2五飛が決まると1発で勝てますからね。

④左桂の使い方

これはまさに現代的です。左桂の使い方はずっと▲7七桂でしたが、▲9七桂とする端桂が現代流。図は▲7五飛の揺さぶりから▲9七桂の局面。

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ここでもし▲7七桂だと▽6六角がありますからね。角筋を通したまま、さらに飛車を中段で使いながら桂馬を活用するという三段構えということです。まさに現代流ですね。

⑤角筋を通しておく

お互いに角道を閉じている形限定ですが、相手より先に▲6五歩から角筋を通しておくのがポイントです。それが同時に、相手からの▽4五歩を牽制することになるからです。1歩を手にしながら牽制にもなるという価値の高い手ですね。

そして第2節は最近流行の阿部流を解説しています。先手が序盤で高美濃を目指して早めに▲4六歩としたところで早速▽8八角成!とした局面。

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これが阿部流のスタートで、手損ですが先手の高美濃を狙い撃つという戦法です。そして以下駒組みが進み、下図の局面になります。

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お互いに向かい飛車となり、先手高美濃VS後手金無双です。この図を見るとよくわかりますが、三間の浮き飛車には有効とされる高美濃ですが、向かい飛車+棒銀にはそれほど効いてないですね。

そして手損したものの金無双にすることにより向かい飛車に耐性があり、かつ相手より攻めの銀の進出が早い、この2点が阿部流のポイントです。

この攻防についての細かい解説は本書を読んでいただくとして、ここでは章末の補足講座を紹介。上図よりさらに▽1四歩▲9六歩▽2六歩▲同歩▽同銀▲2七歩▽同銀成▲同銀▽2六歩▲3八銀▽2七角と、棒銀の強引な攻めが炸裂した局面。

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ここから▲5六角▽3八角成▲同玉▽2七歩成▲4八玉▽1八と▲6五角▽6一玉に▲2七歩!

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これが手筋の1手で、以下▽同飛成▲3八銀▽2八龍に▲8三角成の狙いです。ダイレクトに▽2九飛成とされるより数段抵抗力があるとのことで、こういう手筋は勝敗に直結する手筋ですよね。

また途中の角を2枚並べるのも、ある意味センス無い手な気もしますが、確実な指し手ですね。知らないと指せないなあ。いやあ勉強になりました。

 

<第2章 相三間・先手浮き飛車型>

そして真の最新形、先手浮き飛車型の解説です。いわゆる阿部流が優秀だったため、先手の指し方がこの数年で変化しました。それが浮き飛車+美濃+▲4六歩保留という形。

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本来角交換に弱い浮き飛車を、いつでも角交換が可能なこの早い段階で指すのが現代的ですね。菅井流という感じがする一手ですが、菅井さん考案とは書いてないですね。

いずれにせよセンスある指し手です。ぼくには一生指せない部類の手と思います。以下は▲7七桂で角道を閉じ、左銀を6八〜5七〜4六と使い▲7九角が狙いとなります。

しかしこのあたりの手順はまだ試行錯誤の段階と感じますので、やはり数年後には変わっていそうですが、非常に参考になる手順と思います。

 

<第3章 後手▽4四角型向かい飛車>

そして最新形の一つである▽4四角型の登場です。初手から▲7六歩▽3四歩▲7五歩▽1四歩!▲1六歩▽5四歩▲6六歩▽4四角!の局面。

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プロの実戦で初めて見た時にはもの凄い違和感でしたね。その時は狙いが全くと言って良いほど分かりませんでしたが、どうやら狙いは先手の主流である美濃囲いを狙い撃ちするということのようです。それがつまり先手の美濃囲い封じとなるようです。

上図以下、普通に先手が美濃囲いを目指すと、後手は囲いを後回しにして先手からの7筋交換を逆用して手に入れた1歩で端を攻めて下図。

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なんだか後手陣は横歩取りの新山崎流のようですが、これは確かに後手優勢ですね。まさに美濃囲いを狙い撃ちというわけですね。

以下の解説は、先手矢倉もダメ→金無双なら戦えるという感じです。変化が多い相振りなので、細かい変化を数多く解説してくれているので、読むだけで面白い内容でしたが、結論としてはよくわからず。というわけで、先手金無双なら戦える、という結論にしてみました。

 

<第4章 先手中飛車>

いやあほんと先手中飛車ってなんだか指されると嫌なんですよね。本書で解説されているわけではないですが、ぼくはここ数年、全て相中飛車にして対抗することに決めております。

ひとまず同型にしてしまえば、急につぶされることもないので、組み合ってからそそくさと向かい飛車にして先攻してしまうのが急所です。

さてそんなことはさておき、まず第1節は先手中飛車+穴熊VS後手向かい飛車+後手金無双or美濃です。

最近の主流って先手中飛車から穴熊にするんですね。向かい飛車に対して穴熊にすると相当に端攻め+棒銀がきそうで怖いですけど、頑張れば受けきれるようです。結局最終的には相振りも相穴熊とかになるんじゃないのかな、、

本書では後手金無双から先攻するパターンと、美濃から持久戦を解説しています。

そして第2節は「先手中飛車対後手三間」の解説です。この形は昔は三間が有利と言われていました。まあ実際に指すと別に有利な感じしなかったですけど、、

しかしこの形で中飛車側に非常に有力な形が登場したため、先手中飛車復活となったと言われています。それが下図。

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そう、もはや相振り飛車では無いですが先手中飛車+左穴熊です。この形、ぼくも何度かやられたことがありますが、めちゃくちゃ優秀です。上図では▲3八銀としていますが、▲5六飛として3筋の歩交換を防ぎ、後手2四飛のゆさぶりには▲2六歩で受かるという素晴らしさ。

後手が対抗策を知らないと、そのまま右銀も右金も玉に引きつけられ、圧倒的な作戦負けを築かれてしまうのです。本書では相振り飛車では無いので紹介にとどめていますが、この形に関する棋書を執筆中とのことなので楽しみです。

そしてこの中飛車+左穴熊ですが、普通に先手石田流対策としても使えるのがいいんですよね。これ1本でかなり使える裏技的な戦法です。現状ではアマの知らない マル秘定跡 (マイナビ将棋BOOKS)で20ページほど解説されているくらいですかね。

 

<第5章 角道オープン四間対策▽2四歩>

最近の流行である角道オープン四間飛車に対して、後手が角道を開けたまま素早く▽2四歩〜▽2五歩とする驚きの作戦。

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ここまでしないと作戦勝ちできないのかというのが恐ろしいですね。しかし本当に恐ろしいのはここからの手順でした。以下▲3八玉▽5四歩▲2二角成▽同飛▲5三角▽4二銀▲8六角成として下図。

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ここから持久戦になるのかな、という序盤ですが、まさかの仕掛けがありました。それが▽1五歩!▲同歩▽同香!▲同香▽2六歩▲同歩▽1六角!

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こんな仕掛けがあるんですね、驚きです。しかもプロの実戦らしいです。以下は▲4八玉から▲3八金とすれば比較的無難、▲2七香▽2六飛の順はかなりきわどそうです。角道オープン四間飛車対策に困っていたので、今度指してみようかな。

また、持久戦になった場合の指し方もかるく紹介してあります。

 

<第6章 その他の相振り最新研究>

そして最後は、その他の最新形です。まずは先手ノーマル向かい飛車対後手三間という、以前は最もポピュラーだった形です。

先手は最近は矢倉を目指すのは無理とされており、▲2八銀保留の金無双が主流のようです。下図の感じです。

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うーん、圧倒的に後手が指しやすそうに見えますけど、そうでもないみたいです。先手はここから、▲2八玉から▲3八銀という組み替えも視野に入っており、▲2八銀を保留したので駒組みに進展性があるのがウリです。

続く第2節では先手中飛車からの速攻銀交換の形です。

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これは早々に力戦になるので嫌な形ですね。後手としては▽4三銀を保留しておけば銀交換されずに済むんですが、まあなんとなく▽4三銀と指していてこの形になることもある気がしますね。本譜は▽4三銀を先に決めてから▽2二飛としていました。その方が安全なのかな?

一応後手受けきれると思うんですけど、なかなかに難解のようです。そしてこの形はなかなかマニアックだけど、希に出てくる形でもあるので貴重な解説ですね。

そして第3節は下図の▲3八銀が成立するかどうかという内容。

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うーん、まあどうでも良いと言えばどうでもいい変化ですが、気になるといえば気になりますね。まあつまりここから▽8八角成▲同銀▽2八角にどうなるかというわけですね。

以下▲5五角▽1二飛▲7四歩と進み、意外と先手指せそうに見えますが、結論はやっぱり先手不利。まあでもかなり最善をつくさないといけないですね。

そして第4節は、相三間の▽3五歩保留型の解説。と言ってもなんだか普通な感じでは無いですね。それが下図。

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後手は▽7二金からまたしても▽2四歩〜▽2五歩!いやあこういう時代なんですかねえ。恐ろしいです。以下先手が金無双なら後手は銀冠!へ。先手が美濃囲いなら後手は金美濃へと組みます。どちらにしろマニアック最前線ですね。

以上で本書の紹介となります。相振りのセンスと言いながら、なんだかんだで最新形の隅々まで解説+これでもかというほどのマニアックな形の紹介に徹底してましたね。もうセンスじゃなくてただの解説だよ!っていう感じにだんだんとシフトしていく感じが大好きです。

次回作(予定)の「杉本流中飛車左穴熊作戦」(仮題)を期待して待ってます!

 

推奨棋力:1級以上 。