もうタイトルからしてなんだか強そうな感じの本書。相掛かりのスペシャリスト野月七段と山崎八段の共著です。
相掛かりという戦型は、タイトル戦で登場する戦法でありながら、最もマニアックであると思われます。なんと言っても、お互いに初手飛車先の歩を突かない限り成立しないですからね。まあ横歩取り模様からの相掛かりみたいな指し方はありますけど。
というわけで相掛かりは全く研究していなくても、棋力にはほとんど関係無いと言ってもいいくらいですが、やっぱりなんだか相掛かりって魅力ありますよね。自分も昔はひねり飛車とか大好きでよく指していましたし、最もマニアックであると同時に、最も男らしい戦法って言うんでしょうか。接近戦で殴り合うようなイメージがありますね。
というところで内容のご紹介。
第1章 定跡編
ここでは最新の▲2八飛から▲2七銀の引き飛車棒銀VS▽8四飛型または▽8五飛型の2パターンを解説しています。一応本書の売りは野月七段と山崎八段が二人で交互に解説をすることなのですが、この章では基本的な定跡を野月七段が解説し、最後に山崎八段がコメントするという形式になっています。
お互いの見解が食い違ったりとか、意見を言い合ったりとかではなく、単純に野月七段の解説と山崎八段のコメントという内容で、思ったよりは面白みは無いですね。
まあせっかくなので、最新の相掛かりの序盤を再確認。下図はまず先手が飛車先交換をして▲2八飛と引いた局面で▽9四歩と端歩を突いたところです。
何気ない一手ですが、先手の右銀の形を見てから後手は飛車先の歩を切り、そこから▽8四飛(または▽8五飛)と浮き飛車にするか、▽8二飛と引き飛車にするか判断したいのですね。ちなみに先手が▲2七銀と棒銀にしてきたら浮き飛車にして棒銀の攻めを牽制、▲4七銀から腰掛け銀にしてきたら引き飛車で戦うのが良いようです。
ちなみに本書では▲2七銀の棒銀のみ扱っており、つまり下図の局面が後手が飛車先の歩を交換するタイミングとなります。
いやあ緻密ですね。これぞ現代の序盤ですね。
そして、郷田九段の将棋を観戦していてよく思っていたんですが、上図から歩交換の後、飛車を▽8五飛とする指し方って、いったい何のメリットがあるのだろう?と。
棒銀の牽制と、▽9五歩からの仕掛けを狙っているとの解説はあったんですが、気になるのは棒銀の牽制と言っても8五に飛車がいても▲2五銀とできるよね、ということです。プロの実戦では、ダメな手は指されないので、この疑問はかなり長い間、ぼくの中でもやもやしていたのですが、本書で解決できました。それが下図。
図は8五の飛車を8四に引いた局面。なるほど、▽3五歩で銀を2五に誘い出してから▽8四飛とすることで横利きで受けるのか!と思ったのも束の間、、ここから▲2四歩△同歩▲同銀で別に2四への銀の進出を止めているわけでは無いし、▽4四角と出ても3五の歩が邪魔で▽2七歩の反撃の筋も消えている!ダメじゃん!と思ったのですが、解答は下図。
図は▲2四歩に対して▽6二玉とした局面。ははーん、なるほど、、受けないんですね。これは知らないと指せないですよね。以下の解説は本書を読んでいただくとして、要は▲2三歩成は受かっているということです。いやあ奥が深いです。
その他にもこの章は定跡編なのに、すごい手が続々と登場します。まずはNHK杯でも見かけた気がする山崎流の▲8七金!
そして右玉大好きなぼくもとても指す気になれない野月流の▲4八玉!
いやあすげーよ!相掛かり!っていうかこれってまじで定跡なんすかーという驚きの第1章、定跡編でした。
第2章 実戦編
この章では野月七段と山崎八段の実戦からテーマ図を全10個ピックアップし、まず実際の対局者が自戦解説、最後にもう一人の方が見解を述べる、という形式になっています。10局目がなんと山崎VS野月の将棋で、さらにその他の人の対局が3局あり、合計13個です。
これがまた第1章と同様に、最後の見解部分があまり意味無い感じ。意味無いというか短いんですよね。自戦解説部分が5ページに対し、見解1ページ、みたいになっているんで、圧倒的に見解が短い。ここは自戦記と観戦記ということでがっつり同等のページ数を割いて欲しかったなというところ。
ただ基本的には相掛かり独特の、非常に難解な中盤の解説がメインなので、相当勉強にはなる内容ですね。指し手ひとつひとつに見えにくいワナが仕掛けられている事が多く、なるほどの連続でした。でもひとつひとつの解説が少し少ないですね。
そして第三章は二人の対談ですが、まあ普通の内容。第四章は参考棋譜で以上です。第1章の定跡編が、難しい相掛かりなのにすっきりと80ページ程度でまとまっており、最新形を把握できるのはいいですね。2章の実戦解説も、中盤の指し方が垣間見られて良かったです。とりあえず相掛かりを指すならこの1冊、と言ってもいい内容と思います。
最近は2手目3二飛対策なのか、初手▲2六歩と指してくる人が増えてきた印象なので、たまには相掛かりを指してみようかな。
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