吉田五段の初の棋書は、ぼくが最も苦手とする戦型「角換わり腰掛け銀」でした。唯一、先後同型だけは勉強してあるんですが、それが富岡流に撲滅されてしまった今では、プロの将棋を見ていてもよく分からずの日々でした。
そんなぼくの為に書いてくれたのではないかという、富岡流の解説から始まり、それに対抗する為に後手が編み出した新しい指し方をひとつずつ丁寧に解説してくれています。
最後は特殊な指し方まで紹介してくれるという至れり尽くせりの内容でした。ありがとう吉田五段!というわけで各章ごとに見ていきましょう。
<第1章 同型相腰掛け銀>
まず富岡流による先手優勢の解説 → その1手前に変化する▽8一飛型 → さらにその前に変化するツツナカ新手、以上3段階でわかりやすく解説しています。まあ内容は難解でわかりにくいですけどね。
・第1節 富岡流
これぞ同型腰掛け銀ですね。ここから「42173」の順で5歩突き捨てるのが最有力とされる仕掛け。覚え方は「死に際に 一番いい波 やってくる」(42ぎわに 1ばんいい73 やってくる)サーファーになったつもりで覚えてね!さらに1一角と打ち込んだりして下図。
先手は飛車を取らせる代わりに▲3四歩の取り込みと▲4四角成が急所。ここからの3手一組の手順が富岡流です。▲2二歩▽同金▲3三銀!
▲2二歩が細かいですね。以下の候補手は▽3八飛、▽4一玉、▽3三同桂の3つで、どれも先手優勢になるものの手順が難解で長いです。3番の▽3三同桂から▽4一玉という手順が一番やっかいそうだと思いました。
・第2節 ▽8一飛型
前述の5歩突き捨てのラスト、▲3五歩に▽4四銀が手筋でしたが富岡流により撃沈。そこで▽4四銀の代わりに▽8一飛とする形が登場しました。
狙いは▽4一飛の転回で、NHK杯でも見たことありますね。上図から▲7二角だと後手優勢になりますが、▲4五桂だと先手優勢になるとのことで、この形も消えていったようです。
・第3節 ツツカナ新手
というわけで5歩突き捨てが来ると最後まで変化できないのでその直前、▽3三銀の代わりに▽6五歩!と先攻するのがツツカナ新手です。
狙いは以下▲6五同歩▽7五歩▲同歩▽6五桂▲6六銀▽8六歩▲同歩▽8八歩で後手優勢というもの。ただし、▽7五歩の瞬間に▲2四歩から▲2五歩の十字飛車狙いで先手優勢になります。
そしてそれに対して修正版が▽6五歩▲同歩の後に▽3三銀とする手順。以下▲3五歩なら後手も有力ながら、▲6四歩で先手優勢となり、ツツカナ新手も消えていきました。そして後手は、さらにその前で変化することになったのです。
<第2章 ▽7四歩型>
第1章の5歩突き捨ての前の▽7三桂と跳ねる前、ここで先に▽3三銀とするのが新たな後手の工夫で、先手は▲4八飛(上図)と4筋を攻めるのが定跡です。そもそも▲2五歩に対しての▽3三銀だったわけで、先に▽3三銀と上がられると▲2五歩以外が指したくなるというわけですかね。
・第1節 ▽2二玉に▲2五桂
基本図の▲4八飛以下、▽4二金右▲8八玉▽2二玉に▲2五桂と跳ねる、昨年あたりのタイトル戦でよく見た形ですね。以下は▽2四銀▲2八角▽7五歩・・と進んでいきます。
しかしタイトル戦でけっこう後手番が勝っている印象があったのですが、やはり昨年の竜王戦第1局で後手番の渡辺竜王が指した手順が素晴らしく、以降は▲2五桂型は激減しているようです。せっかく何局も観戦して勉強してたのになあ、、
・第2節 ▽2二玉に▲2五歩
▲2五桂のところで▲2五歩とする指し方。飛車を4筋に移動した後だけに、ものすごい違和感を感じる一手ですよね。
ここから▽4三金直には▲4五歩と先攻して先手良し。▽6五歩と逆に先攻するとやや後手良しの変化もあるものの難解のようです。基本的にはこの▲2五歩型自体が少ない模様。
・第3節 ▽2二玉に▲1八香
ここからさらに難易度が上がります。1手パスの掛け合いで何がどうなってるのかわからないという、タイトル戦でもよく出てきたパス合戦の始まりです。
わかりやすくパスの意味を拾ってみました。まずここで▽4三金とすると、以下▲2五歩▽4二金▲4五歩と仕掛けて以下先手優勢というか勝勢にまで至る模様。
第2節で▲2五歩には▽6五歩で後手優勢だったのですが、それは▽4二金型の場合で、▽4三金型では▲4五歩のあたりが強くて無理なのです。というわけで▽4二金として次に▽6五歩を狙うものの、先に▲4五歩で先手優勢というカラクリ。というわけで▽4三金は消えたようです。
そして代わりの1手パス候補は▽9三香&▽1二香です。まずは▽9三香から。
▽9三香型は、▽6五歩と仕掛けた時の▲6四角から香があらかじめ逃げているので、パスとしては一番形が良さそうな一手。しかし今度は▲9一角の隙が生じており、この▽9三香型には▲4五歩と先攻し、▲9一角から▲6四角成の変化で先手優勢。
次は▽1二香。これは攻めの形をキープしたまま▲2五歩には▽6五歩と仕掛ける狙い。しかし▲2五桂から▲1九角という第1節のような仕掛けで以下先手優勢。第1節では先手不利になる仕掛けだったのに、▽1二香型だと先手優勢になるんですね。
でも具体的に▽1二香型を咎める順は載っておらず、何故▽1二香型だと先手優勢になるのかはよく分かりませんでした。終盤で必ず得になるとは言え腑に落ちず。
・第4節 ▽2二玉に▲6八金右
この手は単に玉を固めるだけでなく、穴熊を含みにした手でもあります。以下先手だけ穴熊に組んでから▲4五歩と先攻する形は先手優勢。
ここから▽1二香と後手も穴熊を目指す手に対し、先手も穴熊に組むと後手の方が先に穴熊に組み上がるので先攻されて後手優勢。
そこで▽1二香には▲2五歩▽1一玉に▲4五歩と先攻して、これは先手優勢。よって▲2五歩に▽6五歩と先に仕掛けるのが新しい形で、現在は先手やや優勢のようです。まあとりあえずは、玉を固めつつも先攻を目指すのが良さそうですね。
<第3章 ▽7三歩型>
後手がさらに隙を無くす形として、そもそも▽7四歩と突かない形、つまり▽7三歩型の登場です。
従来からある指し方だとは思いますが、明らかに受け身な指し方ですよね。しかし現代的視点で見れば、好きなタイミングで▽7四歩を突くことができ、選択の幅を広げている手、ということなんですね。
そして先手からは攻めがかなり制限されており、①▲4八飛からの仕掛けは後手に穴熊にされてうまくいかず。②そして▲2八飛のままで進める指し方が出るも、後手は穴熊では無く先攻することで後手優勢に。
③さらに▲7五歩として▽7四歩を突かせない指し方まで登場。
プロの将棋でもたまに見ますが、玉形が悪いので指しこなすのは相当に難しそうに見えます。
④そして▲6六歩を保留する▲6七歩型が登場。
この形にする理由は▲6六角を用意すること。この▲6七歩型から▲4五歩▽同歩▲1五歩▽同歩▲3五歩▽4四銀に▲6六角がメインの狙いで、これが実現すれば強力です。
実際は▲3五歩に対して▽3五同歩▲4五銀と進みますが、以下も先手有利ということで、後手はさらに進化をすることになります。
<第4章 ▽6五歩型>
そう、▲6六角を打ち消す▽6五歩型の登場です。
どんどんと1手ずつ前の手に戻って変化&進化を続ける角換わり腰掛け銀の世界、恐ろしいです。この形では定番の▲4八飛からの仕掛けは難しいため、上図より▲2五歩▽3三銀▲4七金▽4三金右▲8八玉▽2二玉と進んだ下図が基本図となります。
そしてここから、再びパス合戦の始まりです!
▲4八金▽4二金引▲2九飛▽4三金直▲2八飛▽4二金引▲2六飛▽4三金直▲2九飛▽4二金引▲4五歩!
このパスの意味は、▽4二金の時に▲2九飛型で▲4五歩▽同歩▲同桂と仕掛けたいということ。▽4三金型だと、▲4五同桂に対して▽4二銀から▽4四歩と桂を殺す形があるからです。
ちなみに後手が▽4三金型のまま▽3一玉と▽2二玉を繰り返してパスしてきたら、▽3一玉の時に▲4五歩▽同歩▲同銀と仕掛け、以下▽同銀▲同桂▽4二銀には▲4四歩▽同金▲7一角で先手優勢になります。
というわけで、なんとこの後手の▽4二金〜▽4三金と繰り返すパスが進化します!それが、▽5二金〜▽4三金〜▽4二金とするトライアングルパスです!
この意味は、▲2九飛以外の時には▽5二金〜▽4二金でパス、そして▲2九飛の時に▽4三金とするということ。パス合戦もここまでくるともはや脱帽するしかないですね。そしてなんと、今度は先手のパスが進化します。
まさかの飛車の縦移動パスから横移動パスへと進化、、!
横移動パスの意味は、先手の飛車が▲2八飛の時に、後手の飛車が▽8二飛以外であれば▲4五歩から仕掛けて先手優勢というもの。しかしながらというか当然というべきか、上図以下▽6二飛▲4八飛▽4二飛▲2八飛▽8二飛、、後手がその意味を理解していたら防げますよね。
ということでまさかまさかのさらに進化!!
この下段飛車からの横移動パスです!
「え? 何か違うの!?」
以下▲6九飛▽6二飛▲5九飛▽9二飛(これがたしか渡辺竜王が指した手)で、▲2九飛には▽8二飛として、やっぱりダメでした〜、、、
となるので、パスは諦めて▲5九飛型から▲4七銀〜▲5六歩と攻撃形を再編!
今までのパス合戦はいったい何だったんだ!?というこの手順で、以下先手優勢に落ち着いたのだそうで、、めでたしめでたし。
そして後手がそもそも▽6五歩と突くのをギリギリまで遅らせるのがこの形の最新形。と言っても一手だけ遅らせるだけですが、▽6五歩の前に▽3三銀を入れ、▲4八飛の時に▽6五歩として下図。
意味としては、▽6五歩型に対しては▲4八飛が無意味というか▲2八飛が良い形となるので、つまりは▲4八飛を無効化させるということ。
ここから今までのように▲4七金とすると、飛車の横移動の手損で先手が不利に。これだけパス合戦しておいて手損で不利になるのが不可解ではありますけどね。そして▲5九金から▲6八飛とするのが最新で、いまのところ形勢不明のようです。
以上、4章までが角換わり腰掛け銀の歴史を振り返りながらの解説となっています。第5章以下はあまり指されないけど有力な形の紹介です。
<第5章 後手の桂頭攻め>
まずは後手からの桂頭攻めです。以下が基本図1となります。
桂頭を攻めながら、あわよくば入玉を狙うという指し方ですが、基本的には自玉頭での戦いになるので指しこなすのは難しそうという印象です。
本書ではこの他に▽4三金型、▽4二金型、▽4二金+▽7三歩型を紹介しています。結論はだいたい先手優勢となっており、よくても難解な形勢といったところになっていますね。
<第6章 ▽4二飛作戦>
次は▽4二飛作戦。プロではあまり指されない形とのこと。アマでもあまり見ないでしょうけどねえ。ただし後手陣は玉形は薄めですが、隙が無いのがポイント。
ここから先手が穴熊にして後手が先攻する形が紹介されており、それは後手優勢。そして▲4八飛から▲4五歩と先攻する形は、難解という解説でした。
まあ▽4二飛とした割には▽4五歩とは仕掛けづらい形(▲3七桂の利きがあるため)なので、隙は無いけど攻め手に欠ける感は否めないかなと思います。
<第7章 先手の奇襲>
そしてラストは奇襲編。ぼく大好きですこういうの。まずは第1節▲4五桂速攻。
スタートはこの図です。奇襲だけに、先手の▲3八銀▲4九金型は山崎八段や糸谷六段が好きそうな形をしていますよね。ここから単に▲4五桂!
これで攻めになる?と思いますが、以下▽4二銀▲2四歩▽同歩▲同飛▽2三歩▲3四飛!でなんと結果図!
本当に?という感じですが、これにて先手優勢みたいです。以下①▽4一玉には▲6六角、②▽3三桂には▲同桂成▽同銀▲3五飛で、▽2八角には▲2五桂、▽4一玉には▲2五飛ということみたいですね。まあ▲2五飛と生還して1歩得で優勢という、奇襲のわりに地味な結果ですけどね。
さらにこの▲4五桂には第2パターンがありました。
それがこの形からの▲4五桂!またしてもこれだけで大丈夫か?という感じですが、以下▽4四銀▲2四歩▽同歩▲同飛▽2三歩にまたまた▲3四飛!
何度見てもこの横歩取りは怖いですよね。以下は▽3三桂に▲4四飛!▽同歩▲5三桂成!で優勢っぽいですが、さらに▽5二銀▲同成桂▽同玉▲5四銀▽8三飛▲5六角(下図)で、これははっきり先手優勢ですね。
こんな仕掛けがあるとは、恐ろしいばかりです。先手としては、上の2つの基本図を覚えておいて、虎視眈々と待ってみるのが面白そうですね。後手としては早めに▽4四歩とすれば防げるので、気になる人は早めに▽4四歩とするようにしておきましょう。
そしてラストのラストは第2節▲4五銀速攻です。
タイトルに速攻とあるものの、準急戦のような感じです。上図から▽同銀▲同歩▽4一玉▲7九玉▽3三銀に▲4八飛と進んで下図。
要は銀を手持ちにして駒組みを進めるというシンプルな作戦。角+銀が手持ちなので、隙があれば角銀コンビの打ち込みを狙うというわけです。これはなかなかわかりやすく、形も好形で有力そうですね。後手の対策としてはさっきと同じく早めに▽4四歩としておくことですね。
以上、「これからの角換わり腰掛け銀」でした。ぼくの好きな歴史を辿る系に加え、奇襲っぽい特殊な指し方も解説されており、現段階での腰掛け銀の棋書としては最高の完成度と言えるでしょう。最近角換わり指してなかったけど、久々に指したくなってきましたね。
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